ボスッボスッ
さっきからずっとクッションに向かって殴り続けている。それに何の意味があるのか。…意味なんてない。けれど、気がついたらずっと殴ってる。
「なんでわたしだけ」
なんでわたしだけ…
なんでわたしだけ…
なんで……
パチリ
そこで目が覚めた。
あぁ、またこの夢を見ていたのだなと苦笑する。
そう。タイトルにもある通り、私は公務員試験に最終で落ちた。
同じ予備校に通ってる友達は全員通って、わたしだけ、落ちた。
本番の日。
体調も万全だったし、台風のおかげで試験が午前から午後になったし、「本当によかった」と安心していた。
それに予備校の先生は私の面接をすごく評価していた。
「ハッピーさんは本当に面接が上手だ。完璧。絶対通るから!」
絶対通る。
ハッピーちゃんなら余裕。演劇やってたから声がよく通るし、表情もいいよ。
周りにもそう言われていたし、自分でもそう思っていた。
「ハッピーさん練習しなくても大丈夫だから」
予備校の先生はそう言って私とほとんど面接練習をしてくれなかった。
え、でも練習したい…と私は大学のキャリアセンターで面接練習を毎日した。そう、毎日。
数をこなしたし、本番は大丈夫!
そう、思っていた。
いざ、面接。
自分が用意していたのと違うことを何個か聞かれてパニックになった。
面接官「広報課志望なんですよね?でもなれる人はほとんどいません。ほとんどが区役所で働きます。あなたは何の課に行きたいですか?」
ハッピー(第二志望聞いてる!)「か、観光政策部です!」
あとあと考えたら区役所の課を答えないといけないのに、本部にしかない課を答えるという始末。
試験後、合格発表まで「落ちてたらどうしよう…」とモヤモヤし、不安で不安でLINEの公式のアカウントに「落ちてたらどうしよう」とメッセージを毎日送るという。
そんな気持ちをかき消すように、合格発表の前日、予備校の友達みんなで遊んだ。
とても楽しかった。美味しいランチを食べて、話題の「天気の子」を見て、ゲーセンで遊んで。
ああ、公務員になってもこうしてみんなで遊んだりしたいな。楽しみながらそう思っていた。
私は完全に浮かれていた。
合格発表当日。
朝から吐き気がすごかった。前日は興奮して眠れず、発表を見るのが怖くてなかなかサイトを開けなかった。
母「もう発表でしょ?見なさいよ」
母から言われておそるおそる開いてみることにした。
落ちてたらどうしよう。あんまり面接手応えなかったし。落ちてたら、私は本当のニートだ。ああ、受かってください、お願いします!!
心臓がドクンドクンと高鳴る。
震える手でサイトを開く。
2620の番号を探す。
………
………
………
ない。
私の番号だけぽっかりと穴が空いたようになかった。
見間違いかな?
そう思い、もう一度確認するが、、、ない。
背中にズンと重たいものがのっかり、頭の中が真っ暗になった。
最終試験、最後の最後で落ちてしまった。
予備校の友達のグループラインにそのことを報告。
「落ちちゃった笑笑」
時間が経ってもなかなか既読がつかない。
そりゃそうだ。返信に困る内容だよな。あは、あははは。
そんなことを思っていると、LINEの通知が鳴った。
「えええ!」
「ハッピーは頑張ってたよ」
「これからもハッピーちゃん、友達でいてね」
………
みんなは通ったのか。そうか、そうだよな。落ちるわけがないよな。
「とりあえず、午後に予備校行く」
と、LINE。すると…
「午後、予備校にいくね!」
「私も行く!」
「私も空いてるから行く!」
「今日は予備校デーだ!」
皆予備校に集まる模様。
とりあえず予備校に行こう。もしかしたら職の相談ができるかもしれない。きっとタメになる話とかできるかもしれない。
そう、思っていた。
予備校に着くと、もうみんなすでにいた。
「あ、ハッピーやっほー!」
みんながニコニコ手を振る。
私もにこりと笑って手を振った。
皆は手元に何か記入している。
見てみると…
「合格体験記」
みんな笑いながら、それを記入していた。
……その時だった。胃がギュッと縮まり、喉から胃液を全て吐き出しそうになった。
みんな合格したのに。
なんで、わたしだけ。わたしだけ落ちたんだろう。
なんで、わたしだけ……
手がわなわなと震え、足がすくんだ。改めて自分が不合格だったことを思い知らされたような気がした。
その時。
先生「おお、ハッピーさん来たね。今から面談しよう」
予備校の先生はそう言い、わたしを別室に連れて行った。
先生「ハッピーさんが落ちるなんて青天の霹靂だよ。びっくり。絶対通ると思ってたのになぁ」
ハッピー「………」
先生「他の落ちそうだと思っていた男子は受かって絶対通ると思ったハッピーさんが落ちちゃって、予想通りにならなかったんだよなぁ」
ハッピー「……」
先生「でもハッピーさんはまだ若いから。大丈夫。可能性はいくらでもあるから。俺はハッピーさんに公務員試験諦めてほしくない。できたら来年もまた受けてほしい。絶対通るから。で、ウチは合格実績あるから、働きながらでもまた通ってほしい」
できたら来年もまた受けてほしい。絶対通るから。
働きながらでもまた通ってほしい。
…??????????????????
先生「ハッピーさんの何がいけないんだろうなぁ、たぶん、完璧すぎるところがいけないんだ。隙がないから、ダメなんだよ」
…………はぁ?
これからどうすべきかの話がしたかったのに、内容はほぼ公務員試験を諦めるな、働きながら"予備校に通って"チャレンジしろ、そのためには定時で帰れる仕事につけ、ばかり。
これを2時間近くダラダラと話されただけ。
50万予備校に払ったのに、絶対通ると言われてほとんど面接練習してくれなかったこと。なのにまた通って来年も受けろと言ってきたこと。具体的な仕事の紹介などなく、「うちは派遣しかないから」と軽く流されたこと。
ふつふつと怒りが湧き出てつぅーっと涙がこぼれ落ちた。
思わず「50万払ったのに」と声が漏れた。
先生「わかるよ」
わかられてたまるか。クソが。
これからわたしは本当にどうなってしまうのだろう。民間企業も公務員試験と並行して受けてきたけどどこも拾ってはくれそうにない。私のことを受け入れてくれるところなんてない。そんな思いもどんどん湧き出て、不安に体を蝕まれていった。
別室を出て階段を降りると、友達はもういなかった。
…そこで私はものすごく安心してしまった。合格した友達といると「なんでわたしだけ」と泣いてしまうかもしれない、と思った。合格体験記を書いているのをみて吐きそうになったのに、きっと今は一緒にいないほうがいい。
LINEで「もうみんな帰ったんだね。今日はありがとう」とメッセージを送った。
すると、「まだいるよ!談話室にいる!」とメッセージが。
市電の駅にいた。まだ十分引き返すチャンスはあった。
でも、私はこう送った。
「もう電車乗った…ごめんね」
正直、今は顔も見たくなかった。
きっと会えばまた辛くなって八つ当たりをしてしまうだろう。そんなの、いやだ。
「そっか、、早く言わなくてごめん」
「まじか!ごめん」
「ごめんね(>人<;)」
「申し訳ない!」
皆に謝られるわたし。
「これから民間とか受けていくから応援よろしくね」
そうメッセージを送ってきった。
市電に乗っている最中、ものすごい自己嫌悪に襲われた。
…予備校の友達はきっと、わたしのことを励ますためにわざわざ集まったんだろう。
電車に乗ってからその思いが巡り巡った。顔も見たくない。そう思って拒絶した自分。なんてクズなんだろう。わざわざみんな集まって談話室で待っていてくれたのに。
それにだ。予備校の先生を恨んだりしたけど、悪いのは自分じゃないか。落ちた自分が一番悪いのに、先生は何も悪くないのに、そんな風に思うなんて。
…だから落ちたんだよ。
自分は本当にどうしようもなくダメな人間で、社会からもそう思われていて、これからもずっとそうなんだよ。
久々にTwitterを開く。わたしはTwitterで「わたしはダメ人間だ」の趣旨のツイートをした。もちろん、いいねはもらえない。ダメ人間に同情の余地はない。
これから本当にどうなってしまうんだろう。ダメ人間なのに。もう、誰も私のこと必要としてないのに。
そんなことを思っていたら、ピコンとTwitterの通知が。
高校の友達のワカリンがダメ人間ツイートにリプライをしてくれていた。
「そういう時、そう思ってしまうのはしょうがないし、自分に自信が持てないのは当たり前だと思う。私も実習でそう感じたことある。そんな余裕ない!って言われちゃいそうだけど、今はちょっと一息、休息が必要と思う。私はハッピーがダメな人間だなんて思わないよ。ハッピーには良いところいっぱいあるもん!」
…目頭が熱くなっていく。
大粒の涙がぼろぼろこぼれ落ちた。
拭っても拭っても溢れ、袖がびしょびしょになった。
試験に落ちただけで、役所、社会、世界から否定されたような気分になって、友達や先生を拒絶してしまっていたのに、そんなゴミみたいなわたしに「ダメじゃない」「いいところいっぱいある」と言ってくれる人がいた。
心に温かなものが滲み出して、ものすごく救われた。
私は本当に恵まれている。高校の友達、大学の友達、予備校の友達、みんなわたしのことを応援し、励ましてくれた。
少し休んで、就活頑張ろう。きっと、内定がどこかでもらえる。きっと。
そう思えた。
…というわけで、お久しぶりです。タカハッピーです。絶賛就活中です。
めちゃくちゃ長くなってしまいました。書くか悩んだのですが、あんだけブログに公務員試験がなんちゃらかんちゃら書いてたので、書こうと思いました。
実は内定は一つなんとかもらうことができました…よかった…
就活はまだ続けますけどね。
がんばります。
それでは、さようなら。