幸せなら手を叩こう

思ったことを徒然なるままに

劇場

こんにちは、タカハッピーです。

今日はこんな本を読みました。

それがこちら。

劇場

劇場

  • 作者:又吉 直樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/05/11
  • メディア: 単行本
又吉直樹さんの「劇場」です。
前作「火花」が芥川賞を受賞した時、私は高校3年生でした。面接などで時事に詳しくないといけないと思い、図書館で「火花」を借りました。
芸人だから、話題性があるから、芥川賞を受賞したんだろうな。そう思ってました。
しかし、読んでみると衝撃を受けたのです。
…この人は本当に芸人なのか。
とてもお笑い芸人だと思えないほど、きめ細やかな描写、精密な物語の構造でした。ハッピーエンドではないけれど、バットエンドとも言えない、曖昧な終わり方にも関わらず、読者が納得できるストーリー性にも震えたのを覚えています。
それからしばらく経ち。Twitterのタイムラインをボーッと見てると、又吉直樹さんについての呟きをしている人がいました。
「『又吉は文学っぽいことをしているだけだ。3年もしたら消える』と言っていた大学教授がいた。3年経って、その教授がセクハラで告発されたwww…と又吉直樹がテレビで言っていた。フィクションという形でもそのことについて書いていたので、よほど腹に据えていたのだなと」
ほう。
火花以降、又吉直樹さん作品はご無沙汰でした。本屋で並んでるのを見ると「読みたいな…でも置き場がないし、図書館で借りるのも予約いっぱいで一苦労なんだろう」と思っていました。
そのツイートを見たあと、セクハラ教授について書いているというのも気になってきました。
よし、借りるぞ。
大学のOPACで検索すると…
2作目の「劇場」は予約なし。最新作の「人間」は一人貸し出し中。
そこで「劇場」を借りた、というわけです。
残念ながら「劇場」にはセクハラ教授のことは書かれていませんでしたが、演劇をやってきた身としては心に響く作品でした。
何度も書きますが、私は英語劇をする部活に入っていました。とても充実した大学生活を送れたと共に、「演劇って本当に楽しい」と心から思っていました。
「好きなことだけして生きていきたい」
これは私の目標でもあります。本当に好きなことばかりして楽しく生きていきたい。
演劇を続けて生きていく、というのも憧れではありました。自分の中で楽しいと思っている演劇で生活していけたらどんなにウキウキすることだろう。
しかし、普通に考えてそれはあまりに非現実的すぎました。演技力はそんなに高い方ではない。それに、演劇で成功するなんてほんの一握りしかいない。自分はその中に入るとは到底思えない。
しかし、そう思っている中で部活の先輩に本気で役者を目指し始めた人がいました。
「学校の先生になりたい」と大学に入学したのですが、英語劇を通して「役者になりたい」と方向を転換。劇団に入り、オーディションをたくさん受け、なんと東京の新国立劇場で演劇をするまでになったのです。
「すごい」私はただただこう思いました。自分の知り合いが本当に東京や大阪のテレビに出るような役者になったら自慢しまくりたいし、どんどん活躍されればこちらの鼻が高くなるほどだと思いました。
「もしかしたら私も女優、目指せるんじゃないんだろうか」
先輩がたくさん頑張って役者になろうとしているように、私も女優目指せるんじゃないだろうか。しだいにそうも思ってきたのです。
しかし。そのうちその思いはかき消されます。
役者を目指している先輩(彼は皆から「王子」という渾名をつけられていたので、ここでは王子先輩と呼びます…なぜ王子かというと「王子様のようにかっこいいから」です)と私の間に決定的な違いがあるとすれば、「向上心の強さ」です。
私は演劇をしているときに、先輩方や同級生からアドバイスをもらう機会がありました。自分の演技をもっと良くするため…とはわかっていながらも、少し傷ついていました。自分の中では結構頑張って演じたつもりなのに、「ハッピーの演技ができんすぎるから言ってるだけよ」と裏方の仕事を何一つしなかったある男性に指導された時は「あなたは何もしてないのによくそんなこと言えるな」と心の中でイライラしたこともありました。
しかし、王子先輩は私と違って、アドバイス、指導をしきりに受け止めていました。「もっと、もっと良くするために教えてほしい」と向上心を剥き出しにし、現状に満足せず、「本物」を目指していたのです。
私は承認欲求が強いくせに、否定されるのが怖くて、「アドバイス」が素直に聞けない人間でした。常に自分が一番で、それ以外の人は自分より下であることを願っている。その「理想」が崩されるのが怖くて、人の言うことを聞けない。そういう人間です。 
「劇場」の主人公永田も、そういう意味では私と似ているな、と思いました。
永田は本気で演劇に取り組んでいますが、自分が最高で周りを見下している、そんな男です。彼女である沙希のヒモになりながらも「俺はヒモじゃない」と認めず、周りからも見放されていくような、そんな人。
永田も向上心はあります。ええ、きっとあると思います。でも、「自分が一番で周りを見下している」という考えもあって、演劇、いや人生でさえもうまくいかなくなってるんじゃないかな、と思います。
きっと、私が今から「女優を目指す!」と劇団に入りオーディションを受けまくっても上手くいかないだろうなぁと思います。承認欲求強いくせにアドバイスに耳を傾けない姿勢や、なんの努力なしに「自分が一番でありたい」と願う考えが演劇にも強く出てくると思うのです。
王子先輩のように、「もっと、もっとよくなりたい」と強く思い、驕り高ぶることなくアドバイスをたくさんもらって自分でどんどん改善し進化し続ける人間こそ、うまくいくのだろうな。
そう思いました。
永田も、もっと周りの意見に耳を傾けて素直に受け止められてたら演劇で成功し、恋人の沙希のためにいろんなことが出来ていたかもしれない。そんなふうに思いました。
皆さんもぜひ、「劇場」読んでみてください!
それでは、さようなら。