幸せなら手を叩こう

思ったことを徒然なるままに

ふちなしのかがみ

現実と鏡、真実と夢の境目がなくなってしまう……


「ふちなしのかがみ」という話の主人公、香奈子は夢の世界に囚われ、おかしくなっていってしまう…


ふちなしのかがみ (角川文庫)

ふちなしのかがみ (角川文庫)

わたしは昔から「お化け」というのが怖くて怖くてたまらなかった。
小学三年生の時、遊園地の中にあったお化け屋敷に入り、号泣。それからというもの、非科学的なオカルトものがなんだか怖いと思うようになった。
学校の怪談」という本が学校で流行った時も「怖いの嫌だ」と中々手につけられなかった。「世にも奇妙な物語」なんて番組を親が見はじめたときはすぐさま逃げていた。
魔女が大好きのくせにお化けは怖いというよくわからない子供だった。まぁ私の中の魔女はプリキュアに近く、力を持って自分の好きなようにできたり、可愛いコスチュームに変身したりすることに憧れを抱いていたのだけれど。
しかし、次第にわたしはオカルトを全く信じなくなる。
中学生のとき。ある時こんな噂が流れた。
「ハッピー、坂川くん(仮名)のことが好きなんでしょ?」
坂川くんは私の通っていたピアノの先生の息子さんだ。同い年で同じ中学の人だった。
坂川くんのことは別に好きでも嫌いでもなかった。ピアノはなんとなく習っていただけで、坂川くん目当てではない。
それにわたしは当時別の男の子のことが好きだった。上から目線で申し訳ないが坂川くんにはそんなに執着してなかった。
「ちがう。坂川のことは別に好きじゃない」
「照れてる〜素直になりなよ」
いや照れてないし素直な感想ですが。
私は心からそう思っていた。
最初のうちはまだよかった。だが次第に「ハッピーは坂川が大好き」という噂が坂川くん公認になるほど膨れ上がった。ことあるごとに坂川ネタでいじられ、坂川くん本人が「ハッピーなんか好みじゃないし好かれてる俺可哀想」などと吹聴していた。皆はエンターテインメントのごとく楽しんでいた。
極め付けは同じ部活の子に言われた一言だった。
「ハッピーが部活休んでるとき、こっくりさんしたんだ。そしたらハッピーの好きな人だれって聞いたら『坂川』って」

こっくりさんもこう言ってるからやっぱり坂川のこと大好きなんだね!」

………。

いやだから私坂川のこと好きじゃありませんから〜!残念っ!!!(波田陽区の声)

こっくりさんかなんだか知らないけど「坂川」ってなったんならそりゃ貴方達の指がそうしたんだろ。わたしは別の男の子が好きだったわけだし。
やっぱりオカルトとかまじないなんて嘘ばっか。そんなもんあるわけない。

…と次第にそう思うようになるという。
私は坂川くんが好きじゃなかったからこっくりさん等のおまじないなど全く信じなくなった。おまじないと現実の境界はくっきり分かれていて、融合して曖昧になることはなかった。

でももし、こっくりさんが私の好きな男の子をぴたりと当てていたら。
それか、「ふちなしのかがみ」の話のように鏡に自分の未来が映るというまじないをし、そこに好きな男の子との子供が映っていたら。
たぶん、盲信していたに違いない。
私は○○くんと付き合って結婚して子供ができて…と妄想にふけり、現実を直視できなくなっていただろう。
そうだ。きっとオカルトが楽しいのはそこもあるのだと思う。
現実が辛くて辛くて夢の世界に逃げる。その世界では現実とは違い、幸せで理想。それに執着するあまりに、だんだん歯車が狂っていく。
私はオカルトものに執着したことはないけれど、妄想癖はすごいので、少し分かる気がする。妄想の中の私はしっかりしていて顔も可愛い面白い子だ。そんな自分を想像するのは楽しいし、そうでありたいと願ってしまう。でも現実は。「街中歩いてたらナンパされるから気をつけなさいね」と言われても、されるのは宗教の勧誘ばかり。役所中噂になるほどの仕事のできないポンコツぶり。常に面白い人間でありたいのに頭が悪いので気の利いたことも言えない。
理想と現実が違いすぎて気を病むこともある。理想に近づきたい。そう願い、けれどなれなくて、悲しんでしまう。
きっと、ふちなしのかがみの香奈子もそうだ。
理想を願い、頑張ったつもりなのに全て空回りし、悲劇を起こしてしまう。現実と夢の世界の区別ができなくなり、どんどんおかしくなっていく。
序盤で「私はオカルトを信じてない」と言ったが、やはり言い切れないのかもしれない。高い理想を持って願う私はきっと香奈子とそう変わらない。「鏡のおまじないなんて」とバカにしてたけど、もし私が香奈子と同じ立場ならのめり込んでいたかもしれない。

私じゃなくても、もしかしたら誰にだって理想はあって、なにかのはずみにおまじないを信じてしまうことはあるのかもしれない。それが良い方向に転ぶことももしかしたらあるかもしれないけど、のまれてしまうことも十分にある。
その怖さも、もしかしたら魅力の一つなのかも。そういうふうに思った。

皆さんもぜひ、「ふちなしのかがみ」を読んでみてください!

それでは、さようなら。