「ハッピー、部活に入ってくれない?」
私はこの発言にものすごく既視感があった。この発言に対し「NO」の選択肢はない。「YES」と答えるしかないのだ。
「ハッピー、地歴部に入って。ほら、入部届」
「ハッピーちゃん英語好きだよね?ESS部来て欲しい」
「ハッピーってボランティア好きでしょ?ボランティア部一緒に入ろうよ」
「今被服部廃部の危機で……入部してくれない?」
私は高校生の頃いろんな人たちから4回部活の勧誘を受け、その全てに入部したアホな女である。これがゴリゴリの体育会系の部活とかだと「いや、無理っす」となるが、無理をせず活動できそうなところばかりから勧誘されたのだからタチが悪い。目の前のキラキラした表情を見るとなおのこと断れない。
目の前の先輩……西村さんのそのキラキラした表情は、かつて高校生の時にみたそれだった。
「部活本当に作るんですね」
「うん!だって、もっと謎解きしたいし!ハッピーも入るよね!」
冗談まじりに「謎解きの部活作りたいですねー」とは言っていたものの、本当に作るだなんて。
「はい、入ります」
「よっしゃ!さんきゅー!」
とりあえず入部が決定。聞いてみると、普段はボードゲームをし、四ヶ月に一度リアル脱出ゲーム岡山支店に行って遊ぶらしい。
部活にせずとも普段からそのルーティンをこなしていたが、さすがにガソリン代や駐車場代が嵩んできたゆえにこうなったという。
「見て!部則も作ったんだよ!」
西村さんはプリントを差し出しにこりと笑う。
役職は部長、渉外、会計の3つ、部費は毎月700円、おごられるのは禁止……
いやこの人どんだけ暇なんだやる気に満ち溢れてるんだと感服し、私もにこりと笑った。
「他に部員は?」
「タラちゃんとミッツー!2人とも入部はOKだから、4人での活動だね」
やる気に満ち溢れる西村さんと、その他3人の部員たちとの温度差が懸念されるが、心の中で少しワクワクしている自分がいた。
西村さんは思い立ったら吉日が如くすぐ行動するが、それは私にもそういうところがあるうえ、一緒にこうして遊ぶのは楽しい。
そもそも、この人をこれだけ行動させたのは私が原因とも言える。
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「ハッピー、リア脱にいこうよ」
ボドゲ友達のめろんぬから誘われ、私は何度かリアル脱出ゲームに参加した。
これがめちゃくちゃ面白い。
謎をとき、時には体を動かし、ショーを見る。
「リアル脱出ゲームめちゃくちゃ面白いよ」
昼休み、西村さんと後輩のみっつーに話していた。
「へー、そうなんすね」
「特に西村さんは謎を解くのとか好きそうですし、一度行ってみたらどうでしょう」
「自分でも絶対好きだと思う!行ってみたいなー」
「では、行きましょう」
私の辞書に社交辞令という言葉は存在しない。行くか行かないか。行ってみたいのであればもうそれは「GO」のサイン。
「誰かの運転で4人で行くのがとりあえずベストかと」
「じゃあタラちゃんに車出してもらって、みっつーと俺とハッピーの4人で行こうか」
社交辞令が存在しないのは西村さんも同じだった。
「わー、楽しみだな!」
みっつーもニコニコと笑う。
ここにいるみんな、やるかやらないか、それしかない。だからこそ、入庁してからもボードゲームをしたりして、つるんで遊んでいたのだろう。
「では、公演のチケット探しますね」
私もグッと親指を立てた。
「悔しい!!!」
「俺舐めてました!こんなに脱出が難しいなんて!」
「俺も負けず嫌いだからめちゃくちゃ悶々としてるわ」
試しに4人で行ったが、残念ながら脱出は失敗に終わった。それどころか、最後の謎に行くまでに何度もヒントノートを確認してしまった。私も経験者とはいえ、めろん一行に頼っていた節があったため、全く役に立たなかった。
「次もまた行きましょう!次こそは、脱出成功へ!」
「そうだな!また行こう!それまで俺は謎解きをたくさんして、経験を積む!」
「そうっすね!」
「うん!」
皆で堅く誓った。窓から差し込む夕日に、目が沁みた。
それからというものの、西村さんは狂ったように謎解きの本を買い漁り、毎日のようにやっていた。
「ハッピーちゃん、最近西村くん二宮金次郎のように通勤してるよね。あれ危ないぞって言ってやってや」
西村さんは謎解きの本を読みながら歩き、役所へ。昼休みも謎解きのトーク。退勤も二宮金次郎スタイル。謎解きのアプリもインストールしたようで、隙間時間にも謎解き。
「まぁ、言っても彼はやめないと思います…」
彼はハマったらそれを突き詰める男。わたしが一言伝えたところで辞める人ではない。
「次の公演までにさ、謎解きの画像をラインで送るからみんなで解こう!」
「謎解きの本買ったから、みんなで回して読んでね!」
「絶対に脱出成功しような!」
とまぁ、とにかく熱血ぶりがすごい。
(これ、どこかでみたことあるぞ。文化祭で合唱コンクールに心血注ぐ女子と、全然心にも響かずふざけている男子たちの様子に、我々も似てるのでは?)
とどこか冷静にそう分析しつつも、「はぁ、わかりました」と謎をみんなで解く日々。
私たちは合唱コンクールに渋々参加する男子かよ、とは思ったが、この日々も悪くなかった。いや、むしろ社会人になってこんなに何かに熱中するのは面白いなと思った。
次は脱出成功させる。あの日4人で誓った約束を胸に、西村さんの熱血謎解きに少しウキウキしながら参加した。
「全然脱出成功しないっすね!」
あれから四ヶ月に一度岡山に行ってリア脱をするルールが、決めてはないが暗黙のものとして行われるようになった。しかし、すこしも脱出できない。
ヒントノートを見なくても最後の大謎まで行けるようになった等成長はしてるが、脱出へは遠い道のりだ。
「ていうかもっと頻繁に行きたいよね」
「でもお金がなぁ。交通費がバカ高いから」
そういうと、「じゃあさ」と西村さんが口にする。
「部活、つくる?脱出ゲームの部活」
「ええっ、部活ですか」
「そしたら、組合から補助が出るかもしれないし!部費も集めたら交通費の足しになるだろうしさ」
「いいですね!そしたらもう少し頻度も上げれるかも!」
「10人とかの脱出で全員役所の人間だったら楽しそうだし!」
皆、リアル脱出ゲーム帰りで気分も高揚していた。
「そうと決まれば、部の名前を考えよう!何がいいかなー」
「謎解き部とかどうでしょう」
「うーん、謎解き以外もするのを強調させたいんだよね。ボードゲームとかマーダーミステリーとか」
皆でうーんと唸りながら考えた。ロジックラ部とかどう?いいね、でもなんか発想がおじさんじゃない?えー、いいと思ったんだけどなぁ。じゃあさ、これはどう?
「脳筋トレ部」
皆の顔が上がった。
「いいね!脳の体操をする部活的な!」
「キャッチーだし、いい感じ!」
「よーし、決めた!我々は脳筋トレ部!」
いやもうそれなら「脳トレ部」でいいのでは、とは思ったが版権やらなんやらありそうだし、これでいいかーと納得した。まぁ、こうして夢を語るが如く名前を考えるのも楽しかったし。
「部長は俺、渉外はハッピー、会計はタラちゃんに任せようかな」
本当に作ったのかよと思ってたいなや、なんか役割まで振られていた。
「はぁ。がんばります」
「また10月が近づいたら脱出ゲームの日程合わせよろしくな!」
やっぱり……我々は合唱コンクールに渋々参加する男子たち?
「部活のグループLINEの画像も作ったんだ」

「センスの塊ですね!すごい!」
すごい、確かにすごいが……
もうクリエイターになって活動すべきなのでは……
とは思いつつも、口元はにやりと上がっていた。
同僚と友達のように遊び、部活を作る。
こんなの、きっと他の職場ではあり得ないことだろう。
学生時代、インキャだったゆえ青春たるものを経験してこなかった。取り戻すがごとく今活動してる自分が、なんだかおかしい。
西村さんとの温度差はあれど、このような場を設けてくれた脳筋トレ部のみんなに心からの感謝をした。本当にありがとう。
いつか、皆で脱出できますように。