【宣伝】「消えたコイちゃんを探せ!」
「ハッピー、謎解き出店興味ない?」
この問いに対し、「興味ない」などといった返答は許されない。
「はい。興味あります」
まぁ興味ないわけではないので無難にそう答える。
「じゃあさ、11月8日、コイ・こいフェスティバルに、脳筋トレ部の出店として、謎解きブースを設営しよう!」
もうお気づきの方もいると思うが、私は大竹市の職員である。大竹では一年に一度、「コイ・こいフェスティバル」という市の文化祭のような催しがあり、そこに脳筋トレ部のブースを作ろうというのだ。
面白そう!やってみたい!と思わなかったわけではない。ただ、申し訳ないことに、わたしは参加できない。
「11月8日は……結婚式です」
「ええ!」
西村さんも、後輩のみっつーも、毎日お昼ご飯を一緒に食べ、時にボードゲームをしたり、マダミスをしたり、リアル脱出ゲームに行くほど仲良しな同僚だが、彼らを結婚式に呼ぶ予定はなかった。みっつーは諸事情で常に金欠であり、西村さんは奥様が少し厳しい方で、お小遣いが少なく、「ご祝儀12回分割払いなら参加するよ」と「それもう参加したくないってことじゃん」となったので招待していなかった。
だからこその悲劇。式はわたしのわがままで挙げることになったので変えたりやめるなど不可能。
「当日は参加できませんが、お手伝いします」
「そうかー、残念だなぁ」
西村さんはがっくりと肩を落とした。
「でもお手伝いしてくれるんだよね?皆でミーティングしよう。各々、企画書を作って欲しい。scrap(リアル脱出ゲーム大手の謎解き会社)主催の「謎解き甲子園」の応募企画書をダウンロードして、そこに自分がやりたい謎解きブースの企画を作って、ミーティングで発表して、どのような謎解きを作るか決めよう!」
「はぁ」
「いいっすね!ではいつにしますか?」
「じゃあ候補日を決めよう」
すごい熱量に圧倒される。
するとあれよあれよとミーティングの日が決まった。
そして当日。各々が作成した企画を発表し、脳筋トレ部がやる謎解きが決まった。
それがこちら。
「消えたコイちゃんを探せ!」
あらすじは以下の通り。大竹市は住み良さランキング広島県内一位に輝いた。その表彰式がこれから行われようとしている。大竹市のマスコットキャラ「コイちゃん」もその表彰式に出席予定だが、いつまで経っても現れない。なんと、楽屋に手紙と謎を残し、コイちゃんは消えてしまっていた。手紙を読むと、去年は大竹市市政70周年でチヤホヤされたが、今年は皆見向きもしなくなり、拗ねてしまったよう。式典まであと1時間。それまでにコイちゃんの居場所を突き止め、式に間に合わせることができるのか?!
ちなみにコイちゃんとは、こんなやつです。

可愛い。
大竹の愛すべきマスコットキャラ。
「よし、じゃあこの企画でいこう!とりあえず、それぞれ小謎を考えて欲しい。できたら昼休みにまた話し合おう」
「はぁ」
「スケジュールはこんな感じで、テストプレイはこんな感じで他部員にしてもらって、だからこれまでに謎を固めたくて……」
とまぁこんな感じでとにかくやる気がすごい。
とりあえず部長から指示があったので小謎を考えることに。謎を考えるなど今までほとんどやったことがなかったので、すごく新鮮だった。そして難しい。
「ねー、これわかる?」
「ん?うーん、これクソ問題だな」
と同居人にダメ出しされてはやり直し…
「できました。こんな感じでどうでしょう」
「お!いいね!一旦これで作ろう」
とまぁ一旦完成。
その後、他の謎は西村さんが作成し、初稿が完成。
「部員2人に解いてもらったあと、みっつーの彼女とハッピーの旦那にも一応解いてもらおう」
「はぁ。伝えておきます」
「どんなフィードバックが返ってくるか楽しみだなぁ」
「そっすね!」
とまぁ部員2人のテストプレイを終え…
同居人にも解いてもらうことに。
やってるのを隣で見るのは楽しかった。同居人も賢いので割とするする解いていく。が……
「ここの部分、謎解きというより作業じゃん。しかも配分的にめちゃくちゃ多い。1/3に減らした方がいい。正直、他はよかったけどこの作業感は苦痛だし嫌だった」
同居人は結構はっきりした性格なので歯に衣着せぬ物言いをする。
しかし、彼のいうことは間違っていない。隣で見ていても、わたしも同じことを思った。
それをやってる時の彼が、全然楽しそうでなかったのだ。
作業が何なのかを明かすとネタバレになるので言えないが、とにかくその作業部分を完全にはなくさずとも減らした方がいい、とひしひし感じた。
「ということで減らした方がいいと思います」
すると西村さんは「うーん」と腕組みをする。
「作業ってのはわかる。でもそれは想定の範囲内だ。正直謎の変更は割と前回で締め切っていて、これからはブラッシュアップしたい。ということで、悪いけどこれはこのままでいくよ」
「はぁ」
と返事しつつも、わたしは納得していなかった。どうせなら、皆が楽しいと思えるものを作りたい。どう考えても私たちは素人集団で、scrapのような謎解きを作るのは不可能だ。でも、何より楽しんでもらいたい。参加者に笑顔になってもらいたい。
謎解きを、好きになってもらいたい。
「西村さん、怒らないで聞いてもらいたいのですが、やはり私はそこを改善したいです。3日時間をください。代替案を考えます。その案を聞いた上で、変えるかどうか決めてください。嫌だったら現行でいいので。お願いします」
そうLINEした。なんて横柄な部員なのだろう。
しかし、西村さんの返事は温かかった。
「向上心のあることはいいこと。謎をよくしたいために意見を言うことも必要。3日、頑張って作ってみて」
私は「はい!」と返事をし、代替案を考えた。
結婚式の準備や国勢調査等やることはあったが、その時はずっと脳筋トレ部の活動に集中した。より楽しい謎にするために、うんうん唸りながら頑張った。
そして3日後。
わたしは緊張した。みっつーと西村さんの前で「ここをこうして」「こうやってやります」と代替案を披露していく。
「え、すっごくいいじゃないっすか!俺ハッピーさんの案でいいと思います!」
「うん。これでいこう!」
そしてなんと採用。すごく、すごくすごく嬉しかった。
「あとは、オープニングとエンディング、コイちゃんの声をどうするか、だなぁ」
「あ、わたしやりましょうか。脚本」
「え、まじ!お願い」
「声優もしますよ。脳筋トレ部女わたしだけだし、高い声出せますよ」
「うーん…まぁやってみて」
声優だけなぜか渋られたのは意味不明だったが、脚本と声優もやることになった。普段小説やブログを書いてるので脚本は余裕だし、中学の時声優になるのが夢だった時期があるので、アニメ声を出すのは割と得意だった。
ということで、本番出られないくせに、割と「消えたコイちゃんを探せ!」にガッツリ参加した。面倒でなかったとは言わないが、謎を考えたり意見を言い合うのはとても楽しかったし、文章を書くことを仕事にする夢や声優になりたかった夢も、この活動を通して少し叶えられたように思う。
このブログを読んでいるおかた。ぜひ、コイ・こいフェスティバルに来て、「消えたコイちゃんを探せ!」を体験していただきたいです。
参加費は無料で、所要時間は約1時間です。
対象は初心者向けですが、割と本格的にできたのではないかと思います。
ただ……わたしはいない上に小さな市の文化祭なのでその他目ぼしいイベントがあるかと聞かれると微妙ですが……
もし、興味があれば来てくれると、嬉しいです。わたしのアニメ声も聞けますよ(誰得)
よろしくお願いします!
以上宣伝でした。
https://www.city.otake.hiroshima.jp/soshiki/shiminseikatsu/shimin/gyomu/koikoi/7330.html
脳筋トレ部
「ハッピー、部活に入ってくれない?」
私はこの発言にものすごく既視感があった。この発言に対し「NO」の選択肢はない。「YES」と答えるしかないのだ。
「ハッピー、地歴部に入って。ほら、入部届」
「ハッピーちゃん英語好きだよね?ESS部来て欲しい」
「ハッピーってボランティア好きでしょ?ボランティア部一緒に入ろうよ」
「今被服部廃部の危機で……入部してくれない?」
私は高校生の頃いろんな人たちから4回部活の勧誘を受け、その全てに入部したアホな女である。これがゴリゴリの体育会系の部活とかだと「いや、無理っす」となるが、無理をせず活動できそうなところばかりから勧誘されたのだからタチが悪い。目の前のキラキラした表情を見るとなおのこと断れない。
目の前の先輩……西村さんのそのキラキラした表情は、かつて高校生の時にみたそれだった。
「部活本当に作るんですね」
「うん!だって、もっと謎解きしたいし!ハッピーも入るよね!」
冗談まじりに「謎解きの部活作りたいですねー」とは言っていたものの、本当に作るだなんて。
「はい、入ります」
「よっしゃ!さんきゅー!」
とりあえず入部が決定。聞いてみると、普段はボードゲームをし、四ヶ月に一度リアル脱出ゲーム岡山支店に行って遊ぶらしい。
部活にせずとも普段からそのルーティンをこなしていたが、さすがにガソリン代や駐車場代が嵩んできたゆえにこうなったという。
「見て!部則も作ったんだよ!」
西村さんはプリントを差し出しにこりと笑う。
役職は部長、渉外、会計の3つ、部費は毎月700円、おごられるのは禁止……
いやこの人どんだけ暇なんだやる気に満ち溢れてるんだと感服し、私もにこりと笑った。
「他に部員は?」
「タラちゃんとミッツー!2人とも入部はOKだから、4人での活動だね」
やる気に満ち溢れる西村さんと、その他3人の部員たちとの温度差が懸念されるが、心の中で少しワクワクしている自分がいた。
西村さんは思い立ったら吉日が如くすぐ行動するが、それは私にもそういうところがあるうえ、一緒にこうして遊ぶのは楽しい。
そもそも、この人をこれだけ行動させたのは私が原因とも言える。
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「ハッピー、リア脱にいこうよ」
ボドゲ友達のめろんぬから誘われ、私は何度かリアル脱出ゲームに参加した。
これがめちゃくちゃ面白い。
謎をとき、時には体を動かし、ショーを見る。
「リアル脱出ゲームめちゃくちゃ面白いよ」
昼休み、西村さんと後輩のみっつーに話していた。
「へー、そうなんすね」
「特に西村さんは謎を解くのとか好きそうですし、一度行ってみたらどうでしょう」
「自分でも絶対好きだと思う!行ってみたいなー」
「では、行きましょう」
私の辞書に社交辞令という言葉は存在しない。行くか行かないか。行ってみたいのであればもうそれは「GO」のサイン。
「誰かの運転で4人で行くのがとりあえずベストかと」
「じゃあタラちゃんに車出してもらって、みっつーと俺とハッピーの4人で行こうか」
社交辞令が存在しないのは西村さんも同じだった。
「わー、楽しみだな!」
みっつーもニコニコと笑う。
ここにいるみんな、やるかやらないか、それしかない。だからこそ、入庁してからもボードゲームをしたりして、つるんで遊んでいたのだろう。
「では、公演のチケット探しますね」
私もグッと親指を立てた。
「悔しい!!!」
「俺舐めてました!こんなに脱出が難しいなんて!」
「俺も負けず嫌いだからめちゃくちゃ悶々としてるわ」
試しに4人で行ったが、残念ながら脱出は失敗に終わった。それどころか、最後の謎に行くまでに何度もヒントノートを確認してしまった。私も経験者とはいえ、めろん一行に頼っていた節があったため、全く役に立たなかった。
「次もまた行きましょう!次こそは、脱出成功へ!」
「そうだな!また行こう!それまで俺は謎解きをたくさんして、経験を積む!」
「そうっすね!」
「うん!」
皆で堅く誓った。窓から差し込む夕日に、目が沁みた。
それからというものの、西村さんは狂ったように謎解きの本を買い漁り、毎日のようにやっていた。
「ハッピーちゃん、最近西村くん二宮金次郎のように通勤してるよね。あれ危ないぞって言ってやってや」
西村さんは謎解きの本を読みながら歩き、役所へ。昼休みも謎解きのトーク。退勤も二宮金次郎スタイル。謎解きのアプリもインストールしたようで、隙間時間にも謎解き。
「まぁ、言っても彼はやめないと思います…」
彼はハマったらそれを突き詰める男。わたしが一言伝えたところで辞める人ではない。
「次の公演までにさ、謎解きの画像をラインで送るからみんなで解こう!」
「謎解きの本買ったから、みんなで回して読んでね!」
「絶対に脱出成功しような!」
とまぁ、とにかく熱血ぶりがすごい。
(これ、どこかでみたことあるぞ。文化祭で合唱コンクールに心血注ぐ女子と、全然心にも響かずふざけている男子たちの様子に、我々も似てるのでは?)
とどこか冷静にそう分析しつつも、「はぁ、わかりました」と謎をみんなで解く日々。
私たちは合唱コンクールに渋々参加する男子かよ、とは思ったが、この日々も悪くなかった。いや、むしろ社会人になってこんなに何かに熱中するのは面白いなと思った。
次は脱出成功させる。あの日4人で誓った約束を胸に、西村さんの熱血謎解きに少しウキウキしながら参加した。
「全然脱出成功しないっすね!」
あれから四ヶ月に一度岡山に行ってリア脱をするルールが、決めてはないが暗黙のものとして行われるようになった。しかし、すこしも脱出できない。
ヒントノートを見なくても最後の大謎まで行けるようになった等成長はしてるが、脱出へは遠い道のりだ。
「ていうかもっと頻繁に行きたいよね」
「でもお金がなぁ。交通費がバカ高いから」
そういうと、「じゃあさ」と西村さんが口にする。
「部活、つくる?脱出ゲームの部活」
「ええっ、部活ですか」
「そしたら、組合から補助が出るかもしれないし!部費も集めたら交通費の足しになるだろうしさ」
「いいですね!そしたらもう少し頻度も上げれるかも!」
「10人とかの脱出で全員役所の人間だったら楽しそうだし!」
皆、リアル脱出ゲーム帰りで気分も高揚していた。
「そうと決まれば、部の名前を考えよう!何がいいかなー」
「謎解き部とかどうでしょう」
「うーん、謎解き以外もするのを強調させたいんだよね。ボードゲームとかマーダーミステリーとか」
皆でうーんと唸りながら考えた。ロジックラ部とかどう?いいね、でもなんか発想がおじさんじゃない?えー、いいと思ったんだけどなぁ。じゃあさ、これはどう?
「脳筋トレ部」
皆の顔が上がった。
「いいね!脳の体操をする部活的な!」
「キャッチーだし、いい感じ!」
「よーし、決めた!我々は脳筋トレ部!」
いやもうそれなら「脳トレ部」でいいのでは、とは思ったが版権やらなんやらありそうだし、これでいいかーと納得した。まぁ、こうして夢を語るが如く名前を考えるのも楽しかったし。
「部長は俺、渉外はハッピー、会計はタラちゃんに任せようかな」
本当に作ったのかよと思ってたいなや、なんか役割まで振られていた。
「はぁ。がんばります」
「また10月が近づいたら脱出ゲームの日程合わせよろしくな!」
やっぱり……我々は合唱コンクールに渋々参加する男子たち?
「部活のグループLINEの画像も作ったんだ」

「センスの塊ですね!すごい!」
すごい、確かにすごいが……
もうクリエイターになって活動すべきなのでは……
とは思いつつも、口元はにやりと上がっていた。
同僚と友達のように遊び、部活を作る。
こんなの、きっと他の職場ではあり得ないことだろう。
学生時代、インキャだったゆえ青春たるものを経験してこなかった。取り戻すがごとく今活動してる自分が、なんだかおかしい。
西村さんとの温度差はあれど、このような場を設けてくれた脳筋トレ部のみんなに心からの感謝をした。本当にありがとう。
いつか、皆で脱出できますように。
ひとりごと
最近、信じられないくらい精神状態がよくない。
なんの悩みもないし、毎日楽しいはずなのに。突然、自分は周りの人から嫌われてるのではないか、必要のない人間なのではないか、価値のない、消えるに値し、いなくなった方が皆幸せなのではないかと呪いのように締め上げられ、涙が止まらなくなる。
いつも優しい同居人を言葉の暴力で殴りたい衝動にも駆られる。「あんなこと言われた」「あんなこと禁止された」すごく些細なことだが、それが遅効性の毒のように私の体を蝕み、最低最悪の人間と一緒に暮らしている、こんな選択をしなければ良かったと泣き叫びたくなる。
完全に、おかしい。
おかしいことは自覚している。
けれど、思考を止めることができない。思考というより被害妄想だが。無条件に人から愛されたい、もっと優しくされたいと、またはらはらと泣いてしまう。
もう前回の記事を読んだ方はお気づきだと思うが、私はめちゃくちゃ精神が打たれ弱い。というか、メンヘラである。疲れると1番最初に精神が異常をきたす。何にも悩みがなさそう、毎日ハッピーだねと言われるが、実際はすぐ希死念慮に囚われる。
学生時代からずっとこんな感じなので、たぶん生まれ持った性質なのかもしれない。環境も原因でないとは言わないが。
最近、目まぐるしく忙しいので水曜会というボードゲーム会にも行けてない。減量のため、大好きなお菓子やジュースを我慢し、炎天下の中毎日歩いて筋トレをする日々もたぶんかなりストレスだ。誰も私を責めてない、みんな優しいのに、「みんな私の結婚式なんて呼ばれたら迷惑だし本当は行きたくないんだろうな」と思ってしまう。
しかし、そんな取るに足らないことで自分の体が誰かに乗っ取られてるかの如くおかしくなってるのが怖い。なんにも悪いことが起きてないのに自分ではなぜか悪いように考えてしまう。そんなことでこんなに落ち込んで大丈夫なのだろうか、今後妊娠や出産を経験するかもしれないし、キャリアも上がって仕事の責任も重くなるだろう。こんなことで泣いたりして……大丈夫なわけがない。
しかし、Xでボードゲーム友達がこんなことを呟いていた。
「なんか、気持ちが落ち込んだり、体調が悪かったとしても、あなたのせいではなくて、全部夏の猛暑が悪い。夏の暑さのせい。」
涙が、出た。
私がおかしくなってるのは私のせいで、誰も悪くないのにどうしてこんなことになってるのだろうと悩んでいた。でも、もしかしたら私のせいではないのかもしれない。
そして今日は別のボードゲーム友達に誘われて、ボードゲームをして遊んだ。かなり気持ちが楽になった。
同居人にも「最近私はずっとおかしい、精神状態が本当によくない」と伝えた。
「気づかなかった、ごめんね」と言われた。
「あなたのせいじゃなくて、夏の暑さのせいだから。全て暑いのが悪い」
そう伝えて、にこっと笑った。
自分が悪いとか、誰が悪いとか、そんなんじゃない。全て、夏の暑さのせい。
私は人から嫌われてるかもしれないし、いないに値するかもしれないが、まぁいっか。暑いから仕方ないや。暑くなければ、こんなふうに思うこともない。
そう思うと、気が楽になった。
私がメンヘラなのは元からだし、一生付き合っていくしかないのだから、そういうマインドで生きるしかない。
「ハッピー」というあだ名が似合うよう、精神がハッピーになれたらいいなと思った。
みなさんも、落ち込んだり体調がわるいとしたら、それは全て夏の暑さのせいなので、自分を責めずに、気長にやりましょう。
ヨエリストミーティング2025
推しという存在が、ずっと羨ましかった。
クラスメイトが嵐のだれそれがかっこいいとか、ドラマの主演が最高だったとか、目を輝かせて話をするのを見ても、「何がそんなにいいんだろう」としか思えなかった。
性格が悪いので「そんなに夢中になってバカみたいだな」とすら思っていた。
でも、推しを通して彼女たちはエネルギーをもらっていた。コミュニティを作り、楽しそうだった。
私には推しがいなかった。強いて言えばコナンの服部平次は好きだが、そんなのは彼女たちの嵐や俳優には程遠い。
一時期、推しを何としても作ろうと、好きなドラマでいい演技をしていた田中圭を推しにしようと頑張ったが、出演ドラマのチェックやバラエティを見るのが次第に面倒になり、早々にやめた。
アイドルや俳優を応援し、活力を得て輪を広げる彼女たちが、羨ましかった。どうしたらそんなに夢中になれるのか、不思議だった。だって、夢中になるというのはとてつもなく面倒くさい。バカにしつつも羨ましいという矛盾を抱えていた。
話は変わるが、大学の時に入りたい部活がなかったので手芸部を作ったことがあった。
そこで部員のタッキーが活動するのに気分の上がる曲を流していいか、と聞いてきたので許可すると、おどろおどろしいメロディが流れた。
「夜は自己嫌悪で忙しい。夜は自己嫌悪で忙しいんだ。反省文反省文反省文提出します」
これが、気分の上がる曲?
さながら世にも奇妙な物語のオープニングのような曲調で、サビはずっとこの歌詞が繰り返される。
頭がおかしくなりそうだった。
しかし、「そんな曲流すな」と言ったら、せっかく入部してくれた友達を失うかもしれないので我慢した。
その後も彼女は毎度毎度その歌手の曲を流した。聞いてみると、「倉橋ヨエコ」という歌手の歌らしい。誰だそれ。見たことも聞いたこともない。
しかし、なぜだかわからないが、段々と「もっとその歌を聴いていたい」という気持ちになった。
「泣き止んで、泣き止んでみても、外は今日も雨」
世の中は「泣き止んだら雨は止んで虹がかかってるよ!さぁ歩き出そう!」みたいな歌ばかり支持を得る。
しかし、ヨエコは「泣き止んでも今日も雨」なのだ。
この人は、わかってる。そう思うようになった。
私は高校3年生の時に突然とある病気になった。実力不足もあるが、その病気でとてもじゃないが勉強できる状態ではなかった。
ずっと、辛かった。
「頑張れ」「元気出して」「さぁ歩こう」
そんな歌を聞いても気分は晴れなかった。これ以上何を頑張ればいいかわからなかったし、元気を出したところで病気は治らないし、なぜ歩かねばならないのか。
朝が来るのが怖かった。夜は不安で眠れなくなるので怖かった。
高校は楽しかった。家族もみんな優しい。
なのに、ずっと、ずっとずっと死にたかった。
「不安の山でぺっちゃんこ、私不安の山でぺっちゃんこ。朝よそんなに輝くな。私が惨めに見えるじゃない」
ヨエコの歌は私のための歌だと、次第に思うようになった。
ヨエコは、なぜだかわからないけど、私をすごくわかってくれている。辛い時、ただ横にいて理解してくれる。
私はヨエコの歌を調べてたくさん聞くようになった。「流星」「損と嘘」「廃工場」「友達のうた」「卵とじ」「春の歌」……
無責任に元気になれと、ヨエコは言わなかった。「疲れた」「明日もダメでしょう」「どうせ叶わない」そう高らかに歌ってくれる。
そうだよね、無理なものは無理。明日もダメなんだから、仕方ない。
聞けば聞くほど癖になり、元気になった。ヨエコは私の辛かった過去も現在もしっかり寄り添ってくれた。眠れない時はヨエコを流すと必ず眠れるようになった。
しかし、私がファンになった時、既にヨエコは歌手を廃業していた。
こんなにも私を救ってくれたのに、ヨエコは今、歌を歌っていない。
復活してほしい。ヨエコの歌声を、聞きたい。
そう強く願うようになった。
そんな私も大学を卒業し、社会人になった。環境に恵まれて、学生時代より性格が格段に明るくなった。
それでも、ヨエコの曲はずっと聴いていた。明るくなった今でも、ヨエコは私の全てだった。
そんなある日。Xを見て驚愕する。
ヨエコが復活したのだ。
復活ライブはちょうど仕事で行けなかった。その後も都合で行けなかった。
しかし、6/15の「ヨエリストミーティング2025」のチケットを取ることに成功した。
妹の推しの歌手のライブについて行ったことは何度かあったが、自分でライブのチケットを取って行くのは初めてだった。
私はずっとソワソワしていた。生のヨエコ、生の歌声。
ヨエコがステージに現れた時、体中に電流が走った。この人が、ヨエコ。私の理解者。
歌声は、力強くて優しい、いつも聞く声よりもさらに温かく感じた。気がついたら、ポロポロと涙が落ちていた。
辛かった時、いつもヨエコは私を助けてくれた。一度歌うのをやめたのに、またステージに立って歌を歌ってくれている。
本当に、本当に嬉しかったし、心がポカポカとしていた。いろんなことを思い出して、それが体から溢れてしまった。
私は推しというものがずっと羨ましかった。
夢中になるのは面倒臭いし続けられないから。
でも、私はヨエコを通じて頑張れるようになった。エネルギーをたくさんもらった。
辛い時も眠れない時も、ヨエコのおかげで頑張れた。
夢中になるのは面倒臭いのではない。推しのおかげで頑張れる様子がそう見えるだけなのだ。
ヨエコさん、素敵なライブをありがとうございます。
歌を歌ってくれて、ありがとうございます。
これからも、たくさん応援します。
大好きです。
涙を流しながら、そう思った。
不審者
5月。
この季節になると思い出すことがある。
小学生の頃、校長先生が何かの懸賞応募で、校内で植林をたくさんできるというものを当てた。
「いやー、当たると思ってなかったんですよ」
その表情は得意気で、私たちもふーんと思っていた。
すると、あれよあれよと校内が樹木で埋め尽くされた。私はちょっとした雰囲気チェンジに少し心が浮き足たった。
しかし、この樹木はすぐに伐採されることになる。
「校内で不審者が出ました。たくさんの樹木の影に隠れ、出てきたようです」
すぐに注意喚起され、ジャングルのようだったグラウンドはすぐにもとの禿げた地面へと戻って行った。
みんな呆れ果てていたが、私は校内に不審者が現れたことに不謹慎ながら興奮していた。
こんな地味でなんの変哲もない小学校に、ニュースに存在する不審者が現れた!話をして友達になってみたかったなぁ。
今も頭がハッピーだが、当時はさらにハッピーだったので、不審者と仲良くなれる自信があった。人類皆友人だと信じて疑ってなかった。今思うとやばすぎる。
4〜5月は不審者が多い。そう一生懸命注意していた担任の先生の表情を見ながら、どうやったら不審者と仲良くなれるか考えていたのを今でも思い出す。
話は変わるが、私は最近引っ越しをした。
前の家は最寄りのスーパーからチャリで10分の場所だったが、今の家は徒歩5分ほどで着くようになった。まだ新しい環境に慣れないが、立地はかなり便利になったように思う。
今日もスーパーに行き、晩御飯のメニューを考えた。ピーマンとキャベツが安い。そうだ、回鍋肉にしよう。
キャベツとピーマンをかごに入れると、ふと、見覚えのある人が通りかかった。このスーパーは職場からチャリで15分ほどで着くので同僚には割と会う。私は人と話すのが好きなのと嫌いな同僚がいないので会うと割と嬉しい。大体笑顔で挨拶し、少し世間話をする。
そして、その見覚えのある人は、3年前まで隣の係にいたNさんだった。ご年配にもかかわらずチャキチャキと仕事をし、私と同じ大学を卒業していたため、可愛がってくれていた。
顔を見てわたしはにこりと笑った。
するとNさんもにこりと笑い、近寄ってきた。
「こんにちは」
「こんにちは、あの、わたしのこと覚えてますか?」
「はい!職場から去られた……」
「あら、ありがとう。私、小川妙子といって、2年前に保育園で働いていたけれど病気で辞めてて。出会ったことあったかしら」
自分でも表情が凍り付いたのがわかった。
目の前にいたのは元同僚のNさんではない。全く知りもしない赤の他人だったのだ。
「あ、はい!保育園で一度見かけまして…」
自分でもなんでこんなことを言ってしまったがわからないが引き攣った笑顔でそう言った。
「そうだったの。ごめんなさいね。私、頭の病気になって、手術してちょっと記憶が落ちてるの。わざわざ私のこと覚えていてくれたのに、パッと出てこなくてごめんなさい」
小川さんが私をみてパッと出てこないのは頭の病気だからではない。私とは全くの赤の他人だからである。
しかし、そんなこと言えるはずもなく、ははは…と愛想笑いをして会釈をして去った。
気を取り直し、精肉のコーナーに行った。今日は豚こまが売り切れてない、ラッキー。カゴに詰めて戻ろうとすると、パッと先ほどの小川さんと目が合った。
あわわ…とフリーズする私に小川さんは手を合わせた。
「本当に、先ほどはごめんなさいね。会ったことあったのに」
ありません。
「本当にすみませんね。家内は頭が病気になってパッと出てこないんですわ」
隣に旦那さんと思われる方がいて、私に頭を下げた。小川さんも、旦那さんも何も悪くない。悪いのは間違えたくせにそれを白状できず嘘で塗り固めた私である。
「ところで、名前はなんていうの?」
ピキッと顔が固まり、どくどくと冷や汗が出た。
「た……高橋です」
「知ってるかい?」
「ちょっと知ってるかも」
なんと、ちょっとどころか少しも知るわけがないが、高橋という苗字の多さランキング上位に入るクソ凡人ネームのおかげでそこまで怪しまれずに済んだ。これが小早川とか珍しい苗字だったら「え?」となるところだった。よかった…………
いや何もよくない。
「お子さんは大きくなったの?」
子供など産んだことも妊娠したこともないが、保育園の先生だったのなら私のことは保護者であると思うだろう。
「はい!とても大きくなりました」
ただただご夫妻に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。小川さんは今日一日、「頭が病気だから知人に気づかなかった、自分は酷い人だ」と心を痛めるに違いない。しかし、もう今更「実は赤の他人でした〜!」など言えない。
「失礼します」という声が消え入りそうだった。自分はなんて最低なんだと殴ってやりたかった。
小学生の頃、どんな人でも友達になれると信じて疑ってなかった。相手が敵意を持っていようと、不審者だろうと、必ず仲良くなれると信じていた。
私は今日、知らない人に昔お世話になった保護者を演じてしまった。しかし、友達になりたかったのではない。嘘だと明かしたら非難されると思ったからだ。
4〜5月は不審者が多く現れるという。
あなたの元にも保身のために知人を装った不審者が現れるかもしれない。
その時は、罪悪感に苛まれないように、知らないはずなのに変な人もいるもんだなくらいに思ってください。
猫
2/22。いつも通りXを開いてタイムラインを流し見していた。
「今日はにゃんにゃんにゃんの日!猫ちゃんを可愛がろう!」
みたいな類のポストで溢れていた。そうか、2が並ぶからにゃんにゃんにゃんなんだなー、と1人で納得した。様々な人が自慢の飼い猫の画像をあげ、私は微笑ましい気持ちでいいねを押した。
アラサーの女がSNSの猫の画像にいいねなど、ごく普通の光景に思えるだろう。
しかし、こんなことができるようになったのは、割と最近の話だ。
私は小さい頃、猫が大嫌いだったのだ。
猫派と犬派、という言葉は古くからよく聞く。
どっちも可愛いけど、どちらかというとこっち、みたいなニュアンスだろうが、私の場合、猫は最低最悪の生き物であったため、悪魔か犬かみたいな質問であると捉えていた。猫が好きだと言う人の気持ちが理解できなかった。悪魔と犬なら絶対に犬に決まってるのになぜ悪魔を選ぶんだ、悪魔の何がいいんだ、と恐ろしささえ感じていた。
なぜこんなにも猫が大嫌いだったのか。遡ると、母親の話になる。
母は、動物が好きな子どもだった。
家でたくさんの動物を飼っていた。シマリスやニワトリといった珍しいものも飼っていたらしいが、何より母はインコが好きだったようだ。
インコにピーコと名付け、それはそれは可愛がっていたらしい。餌をやり、水浴びをさせ、妹のように大切にしていた。
そんなある日。
学校から帰る途中に、段ボールに捨てられている子猫を見つけた。
動物好きの母は可愛いなぁと猫を撫で、あることを思いついた。
「ピーコとかけっこをさせよう!」
インコと子猫、お互い可愛い動物同士、仲良く友達になれるはずだ。
そうしてピーコを家から連れ出して、子猫の前に置いた。
「いくよ!ヨーイドン!」
その時だった。
可愛い顔をした子猫が、ピーコを頭からガブリと飲み込んだのだ。
一瞬の出来事だったらしい。
母は慌ててピーコの頭を引っ張ったが、ピーコはそのまま衰弱し、その日のうちに亡くなった。
大切なピーコが。可愛がっていたピーコが。
インコと子猫。仲良く共生できると思っていたのに。どちらも可愛い生き物なのに。
子猫は、私のピーコを丸呑みにしたのだ。
「だから、猫はひどい動物なんだよ。かわいいなんてとんでもないの」
この話を私は物心ついた時から、日本昔ばなしのごとく聞かされていた。猫は可愛い顔をして、大切なペットを丸呑みにする、獰猛で冷徹な恐ろしい生き物。可愛がるなんてとんでもないし、むしろ存在してはいけない。
私はあまり頭のいい子どもではなかったため、母が何度も何度も話すその話に納得し、猫は恐ろしい悪魔なのだと思い込んだ。
一種の洗脳である。
それからは、猫は可愛い面をした化け物なのだと心から思っていた。キティちゃんやディズニーのマリーちゃんの筆箱を持っている友達を悪趣味だと心から思っていたし、母も私に猫のグッズを一切与えなかった。猫派犬派の話題もそんなの犬一択なのに何を楽しく話しているのか理解できなかった。
そして極め付けは、野良猫はうちの庭によく糞をしていった。
うちの庭なのに勝手に入り、糞をする。それも臭いし汚いし。迷惑極まりない。猫とかいう生き物は最低最悪の獣じゃないか。
そういうわけで、私は猫が大嫌いだった。可愛い以外何一ついいところのない、害しかない獣だと心から思っていた。可愛いと言っている友達は、悪魔に騙されている、可哀想にと思った。
そんな私も高校生になった時のこと。
「猫可愛いよねー」
いつメンでお決まりのトークになった。皆が猫の可愛さについて語り、いいよねとニコニコする。だめだ、猫は獰猛で冷徹で迷惑な生き物なのに、皆はそれに気づいてない。
「アタシ、猫嫌いなんだよね」
「え?なんで」
私は言い聞かされたあのピーコの話をした。大切にしていたペットを丸呑みにした恐ろしい子猫。
「だから、嫌いなんだよね」
友達は目をぱちくりとさせる。
「それさぁ、ハッピーのお母さんがちょっとバカなだけじゃない?」
「え?」
「だって猫とインコは共生できるわけないし、インコ近づけたらパクってなるでしょ。普通に考えたらわかるし、猫が恐ろしい生き物なんじゃなくて生理現象なだけでしょ」
その瞬間、頭にこびりついていた汚れが一気に剥がれるように、パーンと視界がひらけた。
そうか!
猫は肉食だし、別に殺そうと思ったわけではなく、生理現象か!
家に糞をすると怒っていたが、それはたまたまこの辺に野良猫がうろついてるからそうなだけで、野良犬でもおこりうること。なんなら、子犬もピーコをパクっとするかもしれない。
猫が悪いというより、お母さんが悪かったんだ!
長きにわたる洗脳が解けた瞬間だった。
こうして私は無事、猫を素直に可愛いと思えるようになった。
大学の時は友達と猫カフェに行き、SNSで猫の画像や動画を見るといいねを押す。
友達と猫派犬派と話題も楽しめるようになった。洗脳が長引いたので犬派のままではあるが、猫を悪魔とは思わなくなった。
母は相変わらず猫が大嫌いで、ディズニーシーのダッフィフレンズの中で猫の男の子のジェラトーニを非常に毛嫌いするなど、相変わらずだが、母の過失とはいえ目の前でペットが死んだのだからトラウマなのだろう。それはそれで仕方のないことかもしれない。(だからといって娘を洗脳するのはどうかと思うが)
なので今日もまた、可愛い猫の画像がSNSで流れたら、ニコニコ笑っていいねを押す。不倫とか陰口よりも、もっと猫の話題で埋まって欲しいなぁと猫を渇望するようになった。
これからも、猫の画像や動画がたくさんSNSを埋めますように。
男友達
「こないだ次女がね、長女の友達の男の子とスノボに行って、その後3人で飲んだのよ」
「へぇ。男の子の友達が少ない私からすると、すごくドキドキするシチュエーションですね」
ブログでも何度も書いているが、私は悲しいほどにモテない。どのくらいモテないかというと、中学の卒業文集で「一生独身でいそうな人ランキング」で栄光の2位を勝ち取った。いやどんなランキング。いじめか。
同僚の娘さんが姉の男友達とスノボ。そんなアニメみたいなシチュエーション、すごすぎる。到底私にはできないなと感心していた。
「そう?ハッピーちゃん、めちゃくちゃ男の子と仲良くない?めちゃくちゃ男友達多いイメージ」
「え?!そうですか?!」
「だって、よく同期くんたちと飲みに行ってるし、先輩くんや後輩くんとボドゲしたりマダミスしたり、岡山に行ってリアル脱出ゲームしたりしてるよね?」
あ、たしかに。
残念ながら非モテは継続中ではあるが、社会人になってから、男の子とばかり遊ぶようになっている気がする。
弊庁は結構男社会で、あまり女の子がいない。同期にも女の子は2人いるが、2人とも子持ち様なのでなかなか遊びづらく、結果限界同期メンズとばかり飲んでいる。
先輩くんや後輩くんとも、庁内でもっと友達を作りたいと思っていた矢先、スマブラを買ったら、ありがたいことにゲーム仲間に入れてくれた。そこで私がボドゲやリアル脱出ゲームを布教して、結果プライベートでもたくさん遊ぶようになった。
趣味のボドゲでもいろんな男性と遊んでいるし、気がつけば男の子とたくさん遊ぶようになっているな、と今更ながら気づいた。
これを学生時代の私が知ったら、驚きのあまり気を失ってしまうかもしれない。
小学生の頃は比較的男の子とも遊ぶ子供だったが、中学生になった途端、話すのも難しいくらい男の子が苦手になった。
苦手、というか、当時かなり性格が尖っていたので男子達が私を避けるようになった。独身でいそうな人ランキング2位は伊達ではない。
高校生になると性格の尖りはだいぶ削られたが、それでも見た目も中身もキモオタだったので、やはり男子とは疎遠だった。唯一アニオタのFくんとミリオタのOとは仲良しだったが、彼らは男友達というよりオタク仲間だった。カラオケに行けば萌系アニメのキャラソンばかり歌うやつ、月月火水木金金とか歌い出すやつと心震える恋など始まるわけがない。
大学時代はサークルに打ち込み、男の先輩と会話をすることはあったが、「この人かっこいいな」と思う先輩は既に彼女がいたし、男の人の免疫がなさすぎるため、建設的な会話はあまりできなかったように思う。高校時代の延長のように「リゼロ(アニメ)面白いのでみてください!」とか言ってた。見るわけないのに。
とまぁ、悲しいほどに男の人と縁のない学生時代を送ってきた。
縁はないが、人並みに恋愛には興味があった。というか、めちゃくちゃ彼氏が欲しかった。大好きな漫画やアニメではいつも隣に素敵な男の子がいた。私にも、通じ合える男の子と共に過ごしたい。心踊る恋愛がしたい。
そんな大学3年の時、公務員専門学校で1人自習をしていた。この時の私は一生懸命勉強しているが、第一志望の自治体の学科試験は通れど人間性を見破られて最終面接で落とされることを知らない。
それはさておき。
黙々と勉強していたら「あの!」と声をかけられた。
「その本、辻村深月ですよね?」
え、と声にならない声が出た。
「僕、すごく辻村深月さん好きなんですよ」
参考書のそばに、大好きな作家辻村深月さんの本を置いていた。卒論を辻村深月さんにすることを決め、息抜きに辻村深月さんの本を読んで卒論のテーマ探しをしていたのだ。
それがきっかけで、男の子に話しかけられた。
「え、あ、その、私も、辻村深月さん、好きで、卒論にしようと、それで」
「卒論!いいねー、文学部ですか?」
「まぁ、そんな、感じです」
「僕ね、辻村深月さんだと、『冷たい校舎の時は止まる』が好きでー」
夢かと思った。
胸が、信じられないほどバクバク鳴る。体中に血が巡り、頭が沸騰しそうなほど熱い。
この、私が。独身でいそうな人ランキング2位の私が。見た目も中身もキモオタの私が。
なんと、男の子に話しかけられたのだ。
人生におけるビッグニュースだった。今まで彼氏というものに憧れを持ち続けていたが、男の子と仲良くなるなど完全にフィクションの世界だった。感激で涙が出そうだった。
「私、辻村深月さんの本、たくさん持ってます。貸しましょうか」
「お!ぜひ!」
ニカっと笑う涼しげな笑顔に、体が震えてクラクラした。
その日は胸の高鳴りがうるさすぎて眠れなかった。どうしよう、男の子と約束しちゃった。こんなこと、小学生以来かもしれない。
とまぁバカみたいに興奮していたのだが。
お気づきの通り、本を貸すことはなかった。
普通に彼は、公務員学校で女の子と2人で行動していた。四六時中その女の子と過ごしていた。本持ってきましたよ、と声をかけることはできなかった。
まぁ、タカハッピーという女はそんなもんである。
それほどに男の子の免疫がなかったにも関わらず、今では男の子とたくさん遊んでいる。
同期A「ようバケモノ」
同期B「タカハシは同期の中ではペットみたいなもんだから」
同期C「珍獣みたいなもんだよね」
やっぱり、非モテは継続のようだけれど……………笑
それでも、こんなに男の子たちが親しげに話してくれているとあの時の私が知ったら、また夜も眠れなくなるだろうな、と1人笑った。